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    インタビュー ] 「セザンヌと鉄斎」 山岸恒雄


     

     

    山岸氏は、ある大手の電機会社の外国為替に長年携わってこられた方である。その山岸氏が本を出版された。本の名前は、「セザンヌと鉄斎」である。どういう経緯を経て、大手メーカーの外国為替部の統括という外為市場の最先端の要職を勤めておられた方が、美術関係の書籍、それも相当の専門性の高い本を執筆されたのか、実に興味深い。今回、大阪を訪れて、その話を詳しく伺った。海外赴任をされていた時や国内でも時間を見つけて、美術館巡りをされていたそうである。その山岸氏、現在、70歳にならんとしておられる。57歳までは、会社勤めをしていた方である。退職後、美術大学の大学院で勉強され、指導していただいた教授に、研究成果を本にするように勧められたそうだ。退職を契機に、それまでの人生と全く違った方向に進まれている。現在は、自ら筆を執って絵を描かれている。今年の四月には、グループ展も開かれると伺った。山岸氏の生き方や、この本は、これからの退職後の人生を考える人の生き方の指針となるのではないかと思う。

     

    セザンヌと鉄斎 山岸恒雄

     

    ところで、セザンヌも鉄斎も名前は聞いたことがあるが、詳しくは知らないという人が多いのではないだろうか?実際、山岸氏とお会いするまで、筆者も、全くといっていいほど、この二人についての知識は無かった。

     

    そこで、簡単に説明というわけにはいかないのだが、どんな芸術家だったかを、簡単に要約してみる。

     

    セザンヌは、1839年、フランスのエクスという町で産まれた。一般的な説明としては、印象派の画家といわれているが、どうも、単純にはそうではないようである。そして、1906年に67歳で亡くなる。山岸氏の本によれば、「セザンヌは大都会パリに馴染めず、心は常にプロヴァンスの自然と強く結びついていた。」山岸氏は、セザンヌの19歳の時から亡くなるまでの236通の手紙と、セザンヌが友人たちから受け取った手紙や、友人同士の書簡の98通で、今回の研究に重要と思われるものは、原語で読み研究されたそうだ。その中では、ゾラへの書簡が82通と多いのだが、後年、彼とは、絶交する。そのセザンヌの変化なども、学術研究の本というよりも、普通に、読み物としても面白い本である。山岸氏は、すべての手紙を精読されて、その中からセザンヌが抱いていた自然観の変化を読み解いていく。

     

    セザンヌの自然観が東洋的であるというのは、山中で瞑想、画筆を執る前に一時間も瞑想することがあったという。その事をガスケに問われた時のセザンヌの返事は、文明人としての自らを覆っている「容易なもの」を打ち壊して、無邪気、無知に戻らなくてはと説明している。山岸氏は、セザンヌのような自然観が西洋にあっては極めて珍しいということは、それが、ゾラにも、ベルナールにも全く理解されなかったという事実がある程度照明していると、結論づけておられる。

     

    一方、富岡鉄斎は、1836年から1924年にわたって生存・活躍している。鉄斎はセザンヌと正反対に、官に認められて活動している。京都に生まれて、育ち、没している。ちなみに、京都中京区にあるいくつかの店(菓子屋、本屋など)の看板は、鉄斎が描いたものとのこと。特徴がある書体なので、寺町を散策する機会があったら、ぜひ、鑑賞されるのも楽しいと思う。京都では、鉄斎は熱烈に支持されていたそうだ。また、宝塚には、鉄斎美術館がある。

     

    山岸氏は、セザンヌと鉄斎に接点は無かったという。ただ、その同質性については、以前より指摘はあったので、それを、博士論文の研究テーマにされたという。同質性かどうか、分からないが、本の表紙や、中に出てくる作品を眺めてみると、なるほど似ているところがある。

     

    「セザンヌと鉄斎」の口絵より、ポール・セザンヌ『ビペミュスから見たサント・ヴィクトワール山

     

     「セザンヌと鉄斎」の口絵より、富岡鉄斎『夏景山水図』

     

    山岸氏の著書の中には、セザンヌと鉄斎を比較するうえで、‘表顱↓⇔更圈↓3┐畔験悄思想の関係、ご嬰犬箸隆愀検↓ド景画の描き方、生業を考察しながら、この二人の巨匠を分析されている。それによると、反対の生き方や考え方をしているのだが、鉄斎は、「自分の一生には、ただ山を見る楽しみだけがある。」セザンヌは、「自然の事物が常に私に喜びをもってこれらを眺める機会を与えてくれる」ところに、共通点を見出している。

     

    著作の中には、山岸氏の実際の模写や写真、そして、いくつものセザンヌと鉄斎の作品の写真が載せられて、それを見るだけでも面白い。実際、美術館を巡り、絵の描かれた場所を訪ね、そして、書簡を原語で読み、さらに、博士号まで取ってしまう。そして、現在は、絵を描いて楽しんでおられるという。こういう定年後の過ごし方にはびっくりさせられる。氏の話では、大学院では、教授と一対一の原語でセザンヌの手紙を読んだり、日本画の手ほどきを受けたりと、素晴らしいところだと感じたそうだ。よく、第二の人生の過ごし方などというが、実に、興味深い経験談であった。絵画に興味のある方、定年後になにをしようかと迷っておられる方には、ぜひ読んで頂きたい珠玉の名著である。

     

    「セザンヌと鉄斎」同質の感動とその由縁

    著者:山岸恒雄

    思文閣出版

     

     


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