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    インタビュー ] 永田灌櫻先生(書家・2017年毎日展 毎日賞受賞):前編


    JUGEMテーマ:書道

     

    永田灌櫻先生

    今回のインタビューは、今年2017年、第69回毎日展の毎日賞を獲得された、書家の永田 灌櫻(ながた かんおう)先生です。
    永田先生は、現在30歳という若さで、書道界の最高峰である毎日展の、大字書部門で栄誉ある毎日賞を射止めた新進気鋭の書家です。

    実際、お話を伺っていると、永田先生には、将来、日本の書道界を背負っていく人となるオーラを感じます。その一方で、笑顔が印象的な青年でもあります。
    普段聞くことのできない書家の生活、書に対する考え方、材料の選び方、プライベートなお話まで伺うことができたのは、実に幸運なことでした。

    永田灌櫻先生

    永田灌櫻先生

    毎日賞受賞作品=劇

    毎日賞受賞作品「劇」

    こちらが、今回の毎日賞を受賞された作品です。「劇」という字です。すぐに読み取れなくても、気迫というか、力強さというのがすぐに伝わってくる作品だと思います。

    書道の世界をご存知ない方に少し説明させていただくと、「毎日展」は、創設以来、常に書道の新しい潮流を幅広く受け入れてきた歴史があり、今回展も3万を超える作品が出品されました。書道を目指す人にとっての最高の目標のひとつが、毎日展の毎日賞なのです。

    人に見てもらうまでが作品

    「教えている生徒さんたちによく話すのですが、書というのは書いておしまいではないのです。人に見てもらうところまで仕上げて、それで作品の完成です。言うならば、作品を引き立てるためにどういう見せ方をするのかというのが大事なのです。
    額装か掛軸か、はたまた、作品を直接パネルに貼り付けて表装なしで勝負することもできます。

    書を鑑賞する作業というのは、単に文字を見るだけではないのです。『書によって醸し出された空間を体験する(してもらう)』と言い換えても良いでしょう。
    茶の湯の文化では、古筆(平安時代以前の古文書)を切り出して、掛軸に仕立ててそれを床の間に掛けていました。そうすることで、その書によって作り出された空気があたりを支配し、茶室へ足を踏み入れた人の心は平安時代にタイムスリップできるのです。」

    明日ありと思う心のあだ櫻 夜半にあらしのふかぬものかは  (親鸞聖人が詠まれたという和歌、特注の櫻をあしらった台紙の上から浮き上がるよう)

    「明日ありと思う心のあだ櫻 夜半にあらしのふかぬものかは」親鸞聖人が詠んだという和歌が、特注の櫻をあしらった台紙から浮き上がるよう。

    「床の間に書が掛かっていないと、茶道は成立しないということです。ですから、茶の湯では、書が珍重されたのです。また、古筆の他にも鎌倉時代以降の高僧のかいた書、墨跡と言いますが、そういうものも床の間に置かれました。墨跡は気迫のある書が多いのですが、内容も古筆のような雅なものではなくて仏語や人生訓が多くを占めます。書が、茶道の精神性を引き締めることに一役かったのです。」

    「迷路」

    「迷路」

    「禅、書、茶道といった日本文化には共通するものがあります。
    作庭家であり大茶人の重森三玲(しげもり みれい)という人は『茶室は美の殿堂であり、そこで茶をいただくというのは美を全部溶かして飲むということであり、大袈裟に言えば宇宙を茶碗に溶かし込んで飲むことである。それが解らないのならば飲む必要はない』と言っています。
    お茶を飲むという中に、日本文化を溶かし込むのです。書も共通するものだと思います。」

    床の間が失われた現代の日本で

    「書というのは、床の間に飾るというのが、日本で続いてきた形態でした。しかし、住宅事情もあって、現代の日本では、床の間を作ることが殆どありません。そうなると、書というものが存在する空間が、だんだんと生活の場から無くなってくるということです。

    そういった状況下で、書を成立するためには、現代の住宅にあった表具(額縁、掛け軸)を作って、書を鑑賞する空間を作る必要があります。分かりやすくいうと、額縁の中に、隣の一室を作って別の空間を作るのです。
    ですから、自分は、フラットな額は使いません。現代に合った表具を使い、額の中に立体感を作り出すのです。
    または表装をしないで、作品をパネルに貼り付ける、というやり方もあります。
    現代の空間に、書が合わせていくのです。」

    「月のかたぶく」

    「月のかたぶく」

    「人に依頼されて書を書く場合、どこに飾るかを最重点に考えます。昔は、書は必ず、床の間に飾るという前提があったのですが、現代では、違います。だからこそ、表装まで考える必要があるのです。

    自分の書いた『竹林一虎』という作品は、障壁画のイメージで制作した作品です。この書は、竹と虎の象形文字を使っています。」

    「竹林一虎」

    「竹林一虎」

    「竹林の中に一匹の虎が現れた様子を、象形文字を絵画的に配置することで表わそうとしました。淡い墨のニジミとカスレは、竹林の奥行や立体感を演出します。
    表装は、木目模様の紙で作品を囲み、さらに上部に欄間(らんま)を作りました。障壁画をはめ込む日本家屋がないのなら、表装の中にその一部を作り込んでしまおうという発想です。
    このように、作品の世界観を演出するのも書家の仕事だと思います。

    更に、もう一枚、尾崎放哉の俳句を書いたこの作品をご覧ください。」

    「ここから波音きこえぬほどの海の青さ」尾崎放哉

    「ここから波音きこえぬほどの海の青さ(尾崎放哉)」

    「『ここから浪音きこえぬほどの海の青さの』
    と、いう句です。
    書が、浮き出るような額装に仕立てました。太く黒い額縁によって空間を切り取り、薄い白色に柄を入れた背景の板に書を配置、そして、書を書いている紙の色。それらが相まって、立体感や放哉が体験した海との距離や色を作り出そうとしましたが、いかがでしょう?

    大きな依頼作品を書くときは、まず、飾る所を見てから書きます。
    先ほども言いましたが、見てもらうまでが、書家の仕事なのです。極端なことを言うと、作品を制作するときは、書く作業は、全部の仕事の10%ぐらいしかないのです。残りの90%は、撰文(何を書くか)が50%、佇まい(どういう風に書くか)を考えるのが30%、そして、どんな材料(紙、墨、硯)を使うかが10%です。そうした上で、最後に書を書きます。」

    一つの作品を書くときは、最低100枚練習します。

    「流儀によっては、一発書きを目指すようなところもありますが、自分は、100枚は書きます。
    最初は、安い練習用の紙を使って練習するわけですが、最後の20枚ぐらいから本番用の紙で清書し、その中から選びます。」

    制作風景。(山崎あゆみ氏撮影)

    制作風景(山崎あゆみ氏撮影)

    「書道では、『手習い』とか『目習い』と言いますが、まずは『目習い』、良い物を見ることが先なのです。それから、練習です。
    書いている時に、『あぁ、これが良い』と納得できることは、ないですね。あと一枚書いたら、もっと良いのが次は書けるのではと思ってしまうものです。
    『一生のうちに3つ納得できる作品ができたら幸せに死ねる。』これはある書家が言った言葉ですが、自分は、書いているうちに納得したことは、まだ無いです。書いたものを比べて、自分としてこれなら良い、というのを完成とします。」

    [ 中編は9月18日(月)更新予定です。お楽しみに!]

    中編の記事を読む >>
    後編の記事を読む >>


    コメント
    若手ながら実力のある書家にインタビューされて、日本文化のうち禅、茶道、書の一体性及び現代における書の住宅への位置つけ、また作品が生まれる過程など具体的に聞き採られているので、私の書に対する理解と親しみが深まったようです。
    • T.nagasawa
    • 2017/09/15 6:00 PM
    T.nagasawaさん
    コメントありがとうございます。永田先生は、こんな30歳の人を見た事がないというような人です。知識、バイタリティ、そしてご自分の作品に対する自信が溢れていて、本当に、素人の私を手取り足取り教えてくださいました。自分の拙い文章で、それを伝えることができているかどうか心配です。

    この後、中編、後編も面白いですので、是非、お読みいただければと思います。
    • よっしー
    • 2017/09/15 9:47 PM
    このような書作家さんがいれば、もっと多くの家庭に絵画同様に書が飾られる日が来るでしようね。中編、後編楽しみにしています。
    • Ramamayu
    • 2017/09/15 11:31 PM
    Ramamayuさん

    初めまして。
    確かに、和だけでは、存在する区間がどんどん減っていきますから、洋との折衷ができると、将来が広がりますよね。永田先生の作品は、我が家でも飾りたくなります。
    • よっしー
    • 2017/09/16 8:37 AM
    書への興味が広がるインタビューですね。

    これからは、作品の裏にある書家の思いを想像しながらの鑑賞を楽しめそうです。

    書イコール床の間の枠にはまらない自由な発想は、現代の住空間にも豊かな日本文化をもたらしてくれるのだなと思いました。

    続きを楽しみにしております。


    • kiyoko
    • 2017/09/17 6:05 PM
    kiyokoさん

    コメントありがとうございます。

    和食屋さんなんかに、何の気なしにかざってある書にも、それを書いた人の思いがあるわけですよね。私も、今までと違った気持ちでそういった書を見ることができそうです。
    • よっしー
    • 2017/09/18 8:59 AM
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