ウェブショップはこちら
0

    インタビュー ] 永田灌櫻先生(書家・2017年毎日展 毎日賞受賞):後編


    JUGEMテーマ:書道

     

    永田灌櫻先生

    2017年、第69回毎日展の毎日賞を獲得された、書家の永田 灌櫻(ながた かんおう)先生のインタビュー。

    書道で使う紙、墨などの色々な材料を、どういう風に選んでいるかを話してもらっています。更に、書道を目指す人へのアドバイスをいただきました。お楽しみください。

    材料の話

    まず、の話からします。
    墨には、基本、油煙墨(ゆえんぼく)と松煙墨(しょうえんぼく)の二つがあります。

    油煙墨は、菜種油、ごま油、椿油などを燃やした煤を使用しています。基本は茶系の黒です。ごまは純黒、そして椿は紫がかった色味がでます。油煙墨は、粒子が細かく均一になりやすいです。書いたところと滲みの差が分かりづらいです。」

    「一方、松煙墨は、松の木を燃やした煤から作ります。“松やに”は油脂成分ですから、これが燃えることによって煤が採れるのです。松煙墨は茶系から青系まで様々な色味がでますが、特に青系で美しさを発揮します。油煙墨との差は、油の粒子の大きさと、その形状の差です。松の煤は粒子が大きめで、さらに均一ではないのです。大きい粒子だと、光の反射度合が違います。乱反射するために、複雑な色に見えます。書いたところに、まず、大きな粒子がストンと落ちます。そして、細かい粒子が滲んで外側にでます。より細かい粒子は書いたところから遠くにいくわけです。ですから、松煙墨を使うと、滲みがフェードアウトするようにきれいに出ます。

    墨の成分というのは、油を燃やした煤と膠(にかわ=動物性のたんぱく質)です。市販の墨汁(固形の墨でなく液体のもの)では、この煤と膠に工業的なカーボンや糊を使います。本当の墨は膠を使っています。ですから、墨汁と墨とは全然違うものです。良い筆を使うときは、必ず墨を使います。墨汁は使えません。化学品から作られる煤や糊だと、筆があっという間に、ダメになります。もちろん、値段のこともあるので、練習では墨汁も使います。大きな字を書くので、擦った墨では量が間に合わないです。」

    制作風景(山崎あゆみ氏撮影)

    制作風景(山崎あゆみ氏撮影)

    (すずり)も同じです。
    硯というのは、ヤスリみたいなもので、粗いのもあるし、細かいものもあります。例えば、大根おろしはおろし金、ワサビはサメの皮のおろし板を使いますよね、素材の良さを引き出すために使い分けるということです。濃い墨にするときは、粒子細かい硯で擦った方が純黒になります。薄い色にする時は、粗い硯で擦ることで複雑な色を出します。

    ですが、基本使用する紙のサイズは全紙です。全紙といっても、書道では、70センチX135センチを言います。小画仙紙ともいいます。値段はピンキリです。練習で使う紙は、一枚100円以下の安い紙です。最終的には数百円から千円くらいの紙で清書します。

    “かな”を書くときは、自分は、白い紙の場合、因州和紙や山梨の西島和紙などを使います。“かな”の紙には高価なものが多いです。滲み止めの加工などをしているものもあります。自分の使っている感覚でいうと、因州のものは、ぱりっと滑らかな感じで、山梨のものは、少し柔らかいソフトな感じがします。山梨の紙は、黒がよく入り、出来上がりがきれいに見えます。

    書道でよく使う紙に「画仙紙」という種類のものがありますが、日本のものは和画仙紙といい、中国のものは、本画仙紙といいます。本画仙紙では、紅星牌が有名ですが、書道や水墨画ではこれを良く使います。最近だと全紙で一枚200円ぐらいです。ぱりっとしています。この紅星牌というのは、大変良いものです。滲みが強く出て、きれいにフェードアウトする感じです。日本の紙では似た質感のものはあまりないです。
    書道で使う画仙紙は、青檀の樹皮や稲わらが主原料です。楮や三椏はあまり入っていません。このため一般的な和紙より強度はありません。
    使ってみると、和画仙紙か、本画仙紙かはすぐに分かります。本画仙という名前からわかるように、中国の紙が本物という意識があります。かつて画仙紙は中国からの輸入品がほとんどでしたが、第二次世界大戦後に日本でも製法を真似て和画仙紙が作られるようになったという経緯があります。日本のものは柔らかく、中国のものは、ぱりっとした感じです。これは、紙の製法ではなく、材料や使っている水の差かと思います。気候や風土に関係していると思います。

    中国の紅星牌は良いものです。特に1980年代以前のものは良いです。時々、書家の方が亡くなられて、遺族の方がそれをヤフオクなんかで出してきます。そういうものには、良いものが多いです。最近は、中国も汚染問題があるせいか悪くなっています。紙に関しては、先行投資した方が良いかなと思っています。基本、質はだんだんと悪くなってきますから。学生の頃から、余裕資金ができると、どんどん買っていました。だから、学生の頃に買った紙を今でも、少しずつ使っています。」

    「最後は、の話です。
    基本、3種類あります。筆の毛は動物の毛です。硬い毛を剛毛といい、馬や狸が一般的です。柔らかいものを柔毛といい、山羊の毛です。そして2種類以上の毛を混ぜて硬さを調整したものを兼毛といいます。また、“かな”を書く筆は、イタチやネコの毛を使います。一番、上質な筆は、山羊のお腹のうぶ毛でできています。

    僕が使っている筆で一番古いものは、私の師匠が、そのまた師匠から譲り受けたもので、三代に渡って使っている筆です。良い筆はそれぐらい、長く使えます。
    面白いことに、擦った墨を使うと筆の毛が育つのです。これは、本当の膠を使っているためで、だんだんと、毛にしなやかな弾力が出てくるのです。膠の成分が毛の間に入っていくようです。最初は、使いづらいぐらいです。一年ぐらい、毎日、使っていると良くなります。そういう筆に、墨汁を使っては、絶対ダメです。」

     

    筆の説明

    「さて、長く材料について話しましたが、これらの墨、硯、紙、筆は、何をどういう佇まいで書くかによって、コーディネートさせるわけです。
    ですから、書く文章や言葉を決めたら、それをどこに飾るのか、そして、どういう佇まい(どのように書く)で書くかを決めるわけです。そこで、この材料が大きな役割をします。それが、決まったら、あとは、練習です。」

    「清風入梧竹」

    「清風入梧竹」

    書道に勤しんでいる方々へのアドバイス

    「書道というのは、習い始める時にどうしてもお習字を出発点にしますから、「上手な字を書く」「きれいに整えて書く」という意識が先行してしまいがちです。もちろん、上手に書くことが様々な表現へと発展してゆくのですが、上手・下手と好き・嫌いは違います。「下手くそだけどどこか惹かれるなあ」と感じる作品はありますし、「上手いけどなんか嫌い」という場合もあります。時には上手に書くことにとらわれずに、無心で書いてみてください。こだわりを捨てた自然体の中に、意外な魅力が潜んでいたりします。」

    永田先生の作品集

    永田先生の作品集

    インタビューアーの一言

    自分は、書道どころか、自分の名前もちゃんと書けない金釘流。そんな人間が、この書作家を目指す新進気鋭の書家に、まともなインタビューをできるだろうかと、インタビュー前は心配だった。しかし、永田先生は、一つ一つ丁寧に説明してくださった。楽しい3時間だった。書道をやっておられる方全てに、読んでいただきたいインタビュー記事だと思う。もちろん、永田先生には感謝、感謝です。

    特に、先生が強調されていたのは、「書というのは、人に見てもらうまでが仕事。」ということだった。そこに、芸術家として、クリエイターとしての自負を感じた。実際のインタビューでは、書道を始めたところの歴史から語っていただいたが、記事にする時、書家としての仕事への考え方をトップに持っていった。又、書を扱う道具についても詳しく話していただいた。これと最後に書いたアドバイスについては、書道に勤しんでおられる方にも、目から鱗となるような話ではないだろうか。

    今回は、和紙というジャンルからは少し離れた。 その一方で、一人のアーティストの考え方に接することができた。それを自分の拙い文章で、読者に伝えることができるかというのが今の心配事である。

    (永田先生のインタビューは終了です。お読みいただき、ありがとうございました!)

    コメント
    確かに幼子の書いた字はアートですよね。嫌味がなく、見た人を笑顔にさせてくれる。無心で書くと拙くとも何か書いてあるもの以上のものが、見る人に沸き起こるのかもしれません。
    灌櫻先生の魅力を十分につたえる良いインタビュー記事だったと思いますよ!よっしーさんの愛を感じました。
    • Ramamayu
    • 2017/09/21 3:24 PM
    Ramamayuさん

    返事が遅れてすみませんでした。素敵なコメントありがとうございました。

    今回の灌櫻先生とのインタビューは、学ぶことが多かっただけでなく、クリエーターの人と話をして、自分の知らない世界について考える良い機会になりました。
    • よっしー
    • 2017/09/22 4:17 PM
    前中後編合わせると「書道入門」の本ができる力作で、これから「書」の作品を見るとき参考となります。
    私自身広く漢字そのものについて強い興味を持っているので、楽しく読ませて頂きました。ちなみに我家の一室には知人の揮毫で「楽天知命」ほかの書を掛けています。
    • T.nagasawa
    • 2017/09/23 10:33 AM
    T.nagasawaさん、楽天知命、良い言葉ですね。

    自己修練するところができない自分としては、自分の使命を知ることなど、とても無理みたいです。今回のインタビューの記事を楽しんでいただけて良かったと思います。
    • よっしー
    • 2017/09/24 11:33 AM
    コメントする








       

    calendar

    S M T W T F S
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    28293031   
    << October 2018 >>

    latest entries

    categories

    archives

    recent comment

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode